女子プロと呼ばれたお客さんとたこ焼き屋②

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前回、「女子プロ」の常連客の記事を書きましたが、今回は「たこ焼き屋」と呼ばれた常連さんの話です。この「たこ焼き屋」さんと出会ったことでまさか自分が指を詰めることになろうとは、という事件がおきました。

 

常連の「女子プロ」と同じく「たこ焼き屋」も開店待ちをして朝から遊びに来てくれるお客さんでした。なぜ「たこ焼き屋」と呼ばれているのかについては、頭がつるぴかにはげていたからと、熱いリーチがかかると本人も熱くなってしまい、顔が真っ赤になることから「たこ焼き屋」と呼ばれていました。実際は旅館をいくつも経営するオーナーでたこ焼き屋と全く関係はありませんでした。

そんな「たこ焼き屋」ですが、自分がコレだと決めた台で当たるまで撃ち続けるお客さんでした。熱いリーチを外したときに声を荒げる以外は特に周りに危害を加えるような人ではないと思われていましたが、『人って限界を超えるとやっぱり変わるんだ』そう感じたのもこのお客さんでした。

あるとき「たこ焼き屋」が選んだパチンコ台の機嫌が悪かったのか、1日遊技し続けて1度も当たらない、そんなことが起こりました。この日は「たこ焼き屋」の発狂を予言するかのような予兆がありました。開店と同時に「たこ焼き屋」は台を選び遊技を始めました。

海物語でサムリーチが外れて店内がざわつく

ぱちんこをする方なら分かると思いますが、パチンコには大当たり確定と呼ばれる超激アツリーチがどの台にも存在しています。(現在100%当たるリーチはないため、99.999%などで当たるため、大当たり確定とお客さんは言ったりするが、あくまで確定ではない)

「女子プロ」も「たこ焼き屋」も好んで遊技していたのが、当時のパチンコ店で超絶大人気を誇っていた海物語と呼ばれるパチンコ台でした。この海物語のリーチの中で、筋肉質のサムと呼ばれるお兄さんがポーズを決めて登場すると(ほぼ99、9%)確変で大当たりがすると言われていました。

この日、「女子プロ」、「たこ焼き屋」とは別に「大工」と呼ばれるもう一人の常連さんの遊技台海物語でサムリーチが発生し、お客さんに空箱を手渡しつつ台カウンターに乗っているドル箱を床に下ろそうとしていました。ちょうどそのとき画面にはムキムキなポーズを取るサムが映っていました。

『いいなぁ プレミアムリーチなんて引いたことないよ』

そんなことを思いながらドル箱を床に下ろして、箱を整理していたときに、突然「大工」が

「うわああああ サムが・・・外れた!」

大声を上げてプレミアムリーチが外れたと叫んだのです。

私自身も液晶にサムが映っていたのを確認していたので、「へぇ、プレミアムリーチなのに外れることなんてあるんですね」そんなことを口にしますが

「ばかやろう!サムが出たら確変大当たり確定なんだよ!外れるわけないだろうが、普通は!」

「そうなんですか?でも、外れましたよね、今」

「この店、やってんだろ!? ええ、遠隔やってんだろ!?」

「大工」はプレミアムリーチを外したものだからものすごい大声で私に言い寄ってきました。

「確変確定なのに外したんだ。保証はあるんだろうな」

パチンコユーザーの中でも海物語のサムリーチは確変確定のリーチと周知されていたため、常連の「大工」も店側が何かしないと大当たりが外れることなんて起きないと、出玉の補償を要求してきました。

 

そもそも大当たりもしていないのに、出玉の補償なんて出来るはずもありません。大当たり確定と思われていたリーチが外れる、ということを知った貴重な体験でした。

リーチが外れたことに納得できない「大工」はいろいろなスタッフに八つ当たりした後「遠隔やってる店ではもうパチンコは打たねえ!帰る!」といってこの日は帰ってしまいました。(翌日「大工」は何事もなかったかのように来店しました)

「たこ焼き屋」、ついにキレる

お昼過ぎに、そんな確変確定のサムリーチが外れる貴重な体験をした私ですが、その場には「女子プロ」や「たこ焼き屋」もいました。常連の「大工」が【遠隔だ】と店内で騒ぎ立てたので、大工のサムリーチが女子プロとたこ焼き屋にも当然知れ渡ります。

朝から4時間、ずっとハンドルを握っている「たこ焼き屋」の遊技台は、この日大当たりの仕方を忘れてしまったかのように魚群リーチなど熱いリーチはバンバン出るもののどれもが大当たりに結びつきませんでした。

15時

16時

17時

18時

19時

20時、開店から10時間が経ったころ、ついに「たこ焼き屋」がキレました。海物語で3000回転で大当たりはまさかの0回。使った金額はゆうに15万は超えていたと思います。「たこ焼き屋」に呼ばれてお客さんのところに出向くや否や立ち上がり、胸ぐらを掴まれ言われました。

「ふざけんなよ!なんだよ!おもてに出ろ!」

開店から10時間、ハンドルを握り続けるも大当たりせず、お昼過ぎには別のお客さんながら確変確定と思われていたサムリーチが外れるという珍事に出くわした常連の「たこ焼き屋」。1回も当たらないわけですから、店側が何かやってるのでは?と勘ぐりたくなるのもわからなくはありませんでした。

「お前らが遠隔やってるのはよーーーーく分かった。オトシマエつけてもらおうじゃねえか」

と声を荒げつつ「たこ焼き屋」はカバンから包丁を取り出したのです。

『刺されるのか、僕は』

そんなことを思いました。

「何やってるんだ、はやくおもてに出ろ!」

そういいながら入り口のテーブルに包丁を突き刺して自分を呼びます。

『すみません。僕、刺されそうなんですけどどうすれば・・・』

インカムで助けを呼ぶも、ちょうどこのときホールはめちゃくちゃ忙しくて『刺されそう』だという私のヘルプの声は届きませんでした。

「はやくおもてに出ろ!早く来い!」

「たこ焼き屋」の声がどんどん苛立っているのが分かり、相手の言うように包丁の刺さったテーブルの前に行く私。

「おう。これでオトシマエとれや。」

『え?え?オトシマエですか?』

「あたりめーじゃろが 遠隔してサムリーチ外して 遠隔で3000回転もまわさせやがってよおお」

「この包丁で、おめーの小指詰めたら許してやるわ」

ああ、これって映画やドラマで見たヤクザ映画とかの【指を切り落とす】やつだとこの時になって理解しました。さらば、僕の小指さん。このとき本当に指を切り落とす直前でした。

人は腹をくくったときに想像しなかった行動をする

「場の雰囲気」という言葉がありますが、まさにこのときこの空間には私と「たこ焼き屋」の2人しか存在せず、他の音はかき消されたかのようなそんな緊張感がありました。

『どうして私が指を詰めなければいけないのかは理解できないけれど、指を詰めないと僕は多分刺される』という状態でなぜか私は冷静でした。いえ、冷静というかどこかふっきれたというか腹をくくったというか、そんな心境でした。

『○○(たこ焼き屋の本名)さん、私が指を詰めることであなたが納得してもらえるなら分かりました。私はこの店の責任者でもないですが、そんな私に指を詰めさせることで納得してもらえるのなら分かりました。その代わり、僕が指を詰めたら一緒に警察に行ってください』

「ああん?なーにいってっだよ!指をつめる度胸もないくせに!」

『いきますよ!めぇかっぽじってよーく見ていてください!うぉおおおおおおお』

ちょっとためらったらきっと包丁を振り下ろせないだろうと思った私は突き刺さった包丁の根本に小指を置くと、そのまま包丁を振り上げて小指目掛けて包丁を振り下ろしました。

 

 

 

 

「ちょちょちょちょちょtyとちょtyちょっとまてよおおお なにやってんだよおめーはあああ」

 

「たこ焼き屋」は真っ青になりながら私の小指の真上にハンドバッグをかぶせ、包丁はハンドバッグに突き刺さった状態でした。まさか私が本当に包丁で指を詰めるとは思わなかったみたいで、相当焦っていました。

 

「ちょちょtyと ばかやろー! そんなことしたら指が本当に切れちまうだろうが!」

『○○さんが望んだことじゃないですか。止めないでくださいよ』

 

「ばかやろー!本当にやるやつがあるか! お前が土下座でもして泣き叫べば許してやったのに!本当に指を詰めようとする奴がいるかよ!」

 

ほんの数分前まで指を詰めろと声を荒げていた「たこ焼き屋」ですが、まさか本当に指を詰めようとするとは思わなかったようで、その狼狽え方はまさにタコそのものでした。

 

その後私は改めて会社の責任者を呼び、店の入り口で起こったことを説明しました。当然ながら「たこ焼き屋」はその場で出入り禁止となりました。出入り禁止と店の外でも今後従業員に一切手を出さない念書を書かせる代わりに警察への届け出は出しませんでした。

そんなわけで、現在でも私の指は全てくっついており、日常生活に不便は全くありません。

社員になって数年目とはいえ、よくこんな恐ろしい場面にもかかわらず物怖じしなかったなと思います。今同じように自分の指めがけて包丁を振り下ろす状況になったら迷ってしまうかもしれません。「火事場のクソ力」とはまた違うと思いますが、人間腹をくくれば大抵のことは出来ちゃうんだなと感じた出来事でした。当時はこんなクセの強いお客さんばかりだったのもある意味で楽しかったのかもしれません。結局こんな怖い思いをした後も数年間働き続けたのでした。今回はパチンコ店の常連さんにつけられたあだ名で思い出した、クセの強いお客さんのご紹介でした。ではでは、今日はこのへんで。