女子プロと呼ばれたお客さんとたこ焼き屋①

f:id:heyaganodame:20200311221406j:plain

サービス業界で働いていると毎日来店するお客さんにあだ名がつくことはよくあるだと思います。昔私が働いていたパチンコ店でも常連さんに様々なあだ名がつけられていました。

 

そんなあだ名をつけられた常連さんの中で「女子プロ」とあだ名がついたお客さんがいました。今日はそんなあだ名をつけられた「女子プロ」さんのお話。

当時私がパチンコ店で働き出したときに先輩のスタッフから常連さんのあだ名を色々教えてもらいました。あだ名なのでそのお客さんの見た目や行動からその名前がつけられることがほとんどでこれといって深い意味がないものから、あだ名の意味を知ると、なるほどと納得できるあだ名までいろいろありました。そんないろいろなあだ名がつけられた常連さんに「女子プロ」はいました。

パチンコ店で「女子プロ」と呼ばれるくらいだからきっとぱちんこのプロなんだろうとはじめて教えてもらった時は思いました。このとき先輩スタッフからは詳しい説明はなく、『女子プロに呼ばれたら慎重にね』というアドバイスだけでした。慎重に接客対応してねっていうことは気性が荒いお客さんなのかな、そう理解したのですが、それは半分正解で半分は正解ではあり、すぐに答えは分かりました。

今でこそ多くのパチンコ店が各台計数機を導入していますが、私が働き出した時代にはそんな最先端の装置はついておらず、昔ながらのドル箱に玉を詰めて、お客さんに呼ばれたらそのドル箱を台カウンターから下ろしたり、台カウンターにドル箱をセットしたりする接客方式。各台計数のお店でしか遊技したことないお客さんには理解できないかもしれませんが、ドル箱にパチンコ玉が満タンに入るとそこそこな重さになります。普通の使い方をすればドル箱1箱にだいたい1500発から2000発くらい入ります。2000発も入ると結構モリモリです。そんな中で「女子プロ」はドル箱1箱に2500発盛る人でした。図で表すとこんな感じです。

f:id:heyaganodame:20200603125358j:plain

2000発しか入らないドル箱に2500発入れるというのは結構冒険で、箱を下ろしたり上げたりするときのちょっとした振動でドル箱に盛られたパチンコ玉がぽろぽろと落ちてしまいます。そのくらい絶妙なバランスでドル箱に玉が盛られている状態です。図を見れば分かりますが遊技台の下皿の周りを取り囲むように玉が盛り上がっており、この状態で少し箱を動かすだけで玉がこぼれてしまうのは誰が見ても明らかでした。

そんなある日、「女子プロ」が大当たりしたのか呼び出しランプで呼ばれます。女子プロの前にいきドル箱を下ろそうとすると案の定ドル箱パンパンにパチンコ玉が盛られ、「これ、下ろすのにドル箱を触った瞬間に玉こぼれるな」そう感じつつ、慎重にドル箱を下ろすために手を伸ばしました。すると女子プロから「玉、こぼしたらぶっ殺すから」という脅迫を受けます。

ちなみにパチンコ店ではじめてドル箱の上げ下げの対応をしたのがこの「女子プロ」だったわけです。記念すべき第一号のお客さんから「玉、こぼしたらぶっ殺す」なんて言われたものだから緊張は最大限にまで上がっていました。

案の定、ドル箱に手をかけて台カウンターから下ろすべく横に動かした瞬間ドル箱に盛られたパチンコ玉がポロポロとこぼれました。

「あ、まずい 玉が・・・こぼれる・・・」そう思った刹那、目の前に飛び込んできたのは、丸太のようなものでした。女子プロの腕でした。玉がこぼれたのを確認した瞬間にエルボーをされたわけです。箱を下ろすために前屈みになっていたため顔面に気持ちいいくらいにエルボーがヒットしてのけぞるように後ろにふっとびました。

「玉、こぼすなっつってんだろーが!ボケが!」

なぜこの人が「女子プロ」というあだ名をつけられているのかを身をもって理解したのでした。

バイト1ヶ月目、毎日エルボーを受け続けた。あるとき・・・

店員に暴力を振るうお客さんはすでにお客さんではないので、今であれば即出入り禁止になるところですが、当時は暴力的ながらお金もたくさん使ってくれる太客だったため、店側も黙認していました。ですがエルボーされる側としてはたまったもんじゃないですよね。毎日バイトに行って『はあああ 今日もエルボーされるのか 嫌だなぁ』そんなことを思いながら仕事をし続けました。暴力を受けるのが嫌なら仕事をやめるという選択肢も当然ありましたが、仕事自体は嫌いではなくむしろ色々なお客さんと話をしたり接客をしたりするのは好きな方だったので、『こんなのでは辞めたくない』そう思っていました。

毎日のように「女子プロ」に呼ばれては箱を下ろすたびにエルボーを受け続けました。ドMじゃないと続かなかったかもしれませんね。殴られ続けておかしくなったのか、1ヶ月エルボーされ続けて痛みにはすでに慣れており、毎回殴られるタイミングも一緒だったのであるとき「女子プロ」のはなったエルボーをひょいと交わしてしまいました。力任せに腕をぶんなげるエルボーだったので、私が避けたことで腕の勢いが止まらず「女子プロ」は椅子から転げ落ちました。ガシャガシャがシャーンと床に積み上げられた「女子プロ」の出玉の山に自分から転げ落ち波のように玉がホール内に転がっていきました。

f:id:heyaganodame:20180625143646p:plain

『どうしようかな』とあたふたしかけたとき、インカム(スタッフが身につけている上司やクルーから指示のやり取りをするトランシーバのような機械)を通して『よくやった!あとは変わるから休憩入っていいよ!』と周りのスタッフから賛美のインカムが入りました。

「ちょっ 待てよーおま」と女子プロが言いかけますが、ドル箱がひっくり返った音でびっくりしたお客さんが女子プロを取り囲むように集まってきたため怒るのをやめて床に落ちた玉を拾い始めたのでした。他のスタッフもこれまで「女子プロ」にエルボーされ続けてきたためなのか、誰も玉を拾おうとしませんでした。バツが悪かったのか、玉を拾い終わるといつもより早く遊戯をやめて「女子プロ」は帰っていきました。こんなお客さんならもう来なくてもいいや、そんなことを思いましたが、時代でしょうか。翌日も朝から何事もなかったかのように「女子プロ」は開店待ちをして朝からぱちんこを続けるのでした。

しかし【度を超えると無視される】と女子プロが学んだのかどうかは知りませんが、それ以来玉をこぼしてもエルボーを仕掛けてくることは無くなりました。もちろん私が呼ばれたときも最新の注意を払いつつドル箱の上げ下げをした際に、玉はこぼれるのですがエルボーはされなくなりました。エルボーがスキンシップがわりといったら変態かもしれませんが、されなくなったらされなくなったでちょっと物足りないと感じてしまう私でしたが、当時のお客さんの中ではこの「女子プロ」は比較的マトモなお客さんだったような気もします。だって、殴られるだけですから。

実はこの「女子プロ」以上におかしな常連がいました。「たこ焼き屋」と呼ばれた常連でした。『まさか、パチンコ店で指を詰めることになろうとは』という、そんな危険な場面に遭遇することになったお話は、また明日。ではでは今日はこのへんで。